カナダからの手紙
「To Hiroko & Koji Akatsuka
お元気ですか？
赤毛のアンのプリンスエドワード島に来ました。
こっちはすずしいよ。
Maho」
絵葉書が一枚届きました。
どこに住んでいるのか、何も書かれていませんが、
まほちゃん先生が初めてくれたカナダからの手紙です。
子どもって、いつの間に大人になるのでしょう。
自分が上京した日のことは、いまでもよく覚えています。
浪人生活を送るために、夜汽車に乗っていきました。
「浪人するような者が、新幹線に乗るのはぜいたくだ」と父が言ったからですが、
寝台列車は、新幹線より高かったですね、お父さん。
あの時、私は18歳で、この先どうなるのか、何になりたいのか、
どうして大学に行かなければならないのか、何もわからないのに、
わからないから東京に行こうと決めたのでした。
大学に行ったら何かが見つかって、どこかで生きていくことになるのだろう、
三重にはもう戻らない。
そんな、気持ちがあったのは覚えています。
寝台列車でも眠れず、ずっと本を読んでいました。
前向きになり、人生を豊かにするような本をもっていけばよかったのに、
アガサークリスティの「そして誰もいなくなった」
西村寿行の「滅びの笛」
なぜだか映像を見るように、その本の表紙まで覚えています。
一年間浪人したくらいで学力がアップするわけはないのですが、
運が良かったのでしょう、明治大学に入ることができました。
いい学校でした。
野球やラグビーの応援や、優勝の提灯行列に参加したことはありませんが、
「おお～明治～～」の校歌は好きです。
浪人生活と大学生活合わせて５年間東京で暮らし、
東京で入社試験を受けた大手ゼネコンのうち、飛島建設に合格して入社。
東京で暮らすのだろうと思っていたら、配属先は四国支店。
４５００人も社員がいるのに、四国支店は４５人。
右も左もわからない四国の香川県、高松で結婚、県営住宅に暮らしました。
四国暮らしの成果は、８８か所お遍路の掛け軸の完成でしょうか。
サラリーマン生活は楽しかったのですが、心の深いところでは悩み苦しんでいたのでしょうか、
うつ病になってしまいました。
いい大学をでて、いい会社に入って、結婚して、子供に恵まれ・・・・
外からみれば順風満帆、でも、内側は嵐の夜。
案外、どんな人もそんなものではないのかな、と思います。
だから、人をうらやんではならないと思うのです。
うらやむ心は、ねたむ心を連れてきますものね。
こんな者を父と選んでやってきてくれたマホちゃん先生。
苦労を掛けていますが、何か立派なアドバイスもできなくて申し訳ないです。
父もまだ未熟で、どうしたらよいのかわからずにいるのが本当のことです。
でも、
ひとつだけ言ってみたいのは、
自分のいる「今」「ここ」から一歩踏み出すことを、どうか諦めないで。
若いうちは、困ったら誰かが助けてくれるかもしれません。
それも、２０歳くらいまでのことでしょう。
そこから先は、自分で道を切り開いていくしかありません。
若さや美しさなど、あっという間に資産価値ゼロになってしまう。
仕事のスキル、人としての魅力、経済活動など、学ぶことはいっぱいあります。
自立するのは容易なことではないからね。
それに、結婚がゴールなんかじゃないことは、お母さんを見てて思うでしょう。
安定した一流企業の営業マンだと思って結婚したら、
うつ病になり、会社を辞めて、親の会社を継いだら、両親とうまくやれない夫。
公務員の娘として堅実に生きることを教えられてきたのに、
商売人として売り上げや、資金繰りに悩まされているお母さんは、家のことも、
子育ても一所懸命やってきました。
結婚がゴールではないことはわかりますね。
つぶれない会社、病気にならないいつも元気で明るい夫は、この世に存在しません。
そうなってから、
「こんなはずじゃなかった」
「私は悪くない」では、通らないのです。
だから、お父さんはマホちゃん先生が
「白馬に乗った王子様を待たないで。
白馬のような社長の奥さんになるよりも、社長になって」欲しいなぁと思います。
女性を磨くというのは、エステやネイルサロンに通うことではなく、
西麻布のお寿司も、素敵な指輪も自分で買えるようになることやで。
そのほうが、絶対に楽しい。
マホちゃん先生、
カナダのどこにいるのか知らないけれど、
世の中には、立派なことを書く人や言う人いっぱいいます。
自己啓発セミナーも腐るほどあります。
でも、本当に腐るほどそんな勉強してきたお父さんが言いたいのは、
立派になってくださいというようなことじゃない。
転ばないで生きることだけが、いいことではないのです。
転んだ時に、起き上がること。
きっと、何度でも転ぶ。
そのときに、腐らないで立ち上がりましょう。
願うのは、ただそれだけです。
どうか覚えておいて。
本当にそれだけしか願っていません。
どこにいても愛しているよ。
