赤塚高仁ブログ

希望・ハティクバ

2017.04.20

2千年の希望

初めてこの歌を聴いたのは、
30年ほど前、イスラエルの砂漠を走るバスの中でした。
ガイドさんが、アカペラで歌ってくれたこの歌を聴いて、
不思議な気持ちに襲われました。
悲しげで哀愁漂う調べでした。。
歌詞は理解できません。
ヘブライ語です。
でもこんな国歌は聴いたことがありませんでした。

国歌といえばたいていは国威発揚の匂いが漂うもので、
「俺たちはすごいぞ負けないぞ!」と気持ちを鼓舞するようなものばかりですが、
この歌の厳かな嘆きのような旋律は、
まるで喪に服しているような気分にさせられるのです。。

 我が希望の光や
 あまねく心照らさぬ
 ユダヤ人が望みや
 いざ東に向かわせぬ

 二千年が望みや
 我が望みは尽きぬ
 シオンとエルサレムや
 かの地を夢見ぬ
 シオンとエルサレムや
 かの地を夢見ぬ

これがイスラエル国歌の歌詞です。
タイトルは『ハティクバ』、
ヘブライ語で『希望』という意味。
ハティクバは19世紀後半、
ユダヤ人独立国家を目指すシオニズム運動の中で生まれました。
1948年5月14日のイスラエル独立宣言で斉唱され、
その後国歌として歌われます。
まさにユダヤ人がエルサレムに戻る希望を歌った曲なのです。
希望というにはメロディーがあまりに哀愁を帯びています。
それは2千年におよぶ離散と流浪の歴史、
民族の悲しみがおのずとそうさせているのかもしれません。

ローマに国を滅ぼされ、二千年国をもたぬ民として世界に流浪し、ユダヤ人同士の挨拶は
「来年エルサレムで!」

国があるのが当たり前ではないと、教えてくれたのはユダヤでした。

ところで、「自由・平等・博愛」を旗印に王様を殺し、国民主権をうたうフランスの国歌はこうです。

 行け 祖国の国民
 時こそ至れり
 正義の我らに旗は翻る
 聞かずや 野に山に
 敵の叫ぶを 悪魔のごとく
 敵は地に飢えたり
 立て国民 いざ矛をとれ
 進め 進め
 敵の血が田畑を染めるまで

レジスタンスの歌からきたとはいえ
『血』という言葉が出てくる国歌もあまりないでしょうね。
かわいい子どもが国家斉唱をしている、
微笑ましい場面で、「敵の血で田畑を染めよ!」という歌詞もすごいです。
それもその国柄と言えましょうか。

学校には必ず校歌があります。
面白くもなんともない歌でしたが、行事のたびに何かと歌ったので、覚えています。
というよりは歌わされたのです。
小学校、中学校の校歌には、
伊勢の海とか鈴鹿の峰といった地元の自然が盛り込まれ、
明るく清くといった類の言葉が並んでいました。
そして愛校心を高めたいのか、
お約束事のように学校の名前を連呼して終わるのです。

大学時代は「白雲なびく駿河台」で始まる校歌を
コンパや早明戦などで歌った覚えはありますが、
なんとなく恥ずかしい気持ちは、どこかにありました。

『君が代』を歌ったことがあるだろうか、とふと思うと、
卒業式などで歌ったかもしれない、
と記憶をたどっても思い出せません。

それは国歌・国旗をめぐる戦後の論争を
ある意味反映しているのでしょうね。
少なくとも日の丸、君が代を大事にしましょうといった
教育を受けた記憶はありません。
それどころか『君が代』を歌うのに
少なからぬ抵抗を感じるのが正直なところです。

国歌を胸張って歌えないことが、恥ずかしいことだなんて、イスラエルに行くまで思いもしませんでしたから。

 立ち上がれ
 奴隷に甘んじない人々よ
 われわれの血肉で新しい長城を
 築きあげよう

中国の国歌はこう始まります。
義勇軍行進曲というタイトルで、
最後は次のような言葉でしめくくられるのです。

 敵の砲火に向かって
 進め、進め、進め

「敵の砲火」の敵とは日本のことです。
中国の国歌はもともと、1935年に公開された
「風雲児女」という映画の主題歌でした。
主人公たちが日本の侵略から民族を守るため
ゲリラとして戦うという内容で、
1949年に国歌となりました。
つまり、反日精神が国の背骨だという驚くべき国家が隣にあるということです。

当然のことですが、
国歌はそれぞれの国の歴史を反映しています。
民族の姿でもあります。

自分は子供のころから何を歌い、何を歌わなかったのか。
あまりに個性的なイスラエルの国歌に出逢って、
何気なく過ごしていた校歌や国歌というものに
思いを馳せることになった30年前。

2千年の希望。
イスラエルの国歌は雄弁に彼ら自身を物語っています。

私が歌える国歌は、「君が代」と「ハティクバ」
私のイスラエルツアーでは、もれなくお土産に「ハティクバ」を覚えて帰っていただきます。

そこから何かが見えてきますから。

魚に水が見えないように、
鳥に空気が見えないように、
日本人に日本が見えないのです。

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