両手なくした男の愛の物語
「赤塚さん、元気にしよっと?」
なつかしい熊本弁。
大野勝彦さんからの電話です。
初めて出会ってから、20年ほど経つのでしょうか。
「赤塚さん、忙しか?・・・なら、手ば、貸そうかね、いま三本余っとるけん」
45歳まで、熊本でバリバリやり手百姓だった大野先生。
地域で最も大きなハウス農業をしてた大野先生。
力を誇り、鉄人28号と呼ばれていたくらい怖いものなしの日々でした。
自分は、何でもできる、強いことは良いこと、大きいことは良いこと。
弱い奴は、ダメなやつ。
だれの助けもかりるものか、自分は何でもできる。
でも、45歳の暑い日の午後、農作業中の機械に腕をはさまれて、両腕肘から先切断。
手が、なくなってしまいました。
いままで当たり前だったことが、当たり前でなくなってしまいました。
トイレに行くにも、誰かの助けがいるようになってしまいました。
人生が180度変わってしまったのです。
奥さんがメモに書いたひとこと
「これから私があなたの手になります」
子供たちの命がけの笑顔に救われます。
やさしさに包まれて、大野勝彦変身します。
絵も字も書いたことのない百姓が、義手に筆を持って描き始めた絵とことば。
魂の叫びが、人の心に風を吹かせ、その風が日本全国に吹きわたります。
それから、15年後、大野先生は、阿蘇の国立公園の中に数万坪の美術館をオープンさせることになるのです。
生涯絵を描き続けても、美術館を持てる画伯なんてそうざらにいるものじゃありません。
ましてや、45歳から絵を描き始めた両手のない画家。
奇跡の美術館が、熊本 阿蘇にあります。
「願いは叶うもの、思い強ければ」 いつも大野先生、そう言われます。
明後日30日、大野先生が京都で講演されます。
会いにいってこよう。
ほんの少し、忘れかけていた、心に吹く風を思い出そう。