善人なおもて往生す、いはんや悪人をや
小さな頃からプロレスが大好きでした。
お父さんが力道山を好きだったせいでもあるのかも知れません。
とりわけ、悪役レスラーの上田馬之助が好きでした。
どうしてでしょうね。
ある力士の紹介で、巡業に来た馬之助さんと食事をする機会に恵まれたとき、
粗野で野蛮なレスラーだと思ってたのに、あまりに繊細で気配りのカタマリのような姿にビックリさせられたのです。
プロレスという世界では、どんな必殺技をあみだしても、その技を受けてくれる相手が存在しなければ、技は成り立ちません。
ですから、彼らは、徹底的に受け身を鍛えます。
受けてくれる相手がいるからヒーローは輝ける。
悪役を演じることの光と影を見せられました。
馬之助さんはその後、何度もワシんちを訪ねてくれました。
本当に律儀で優しい人でした。
あるとき、津にあるクラブで馬さんと飲んでたときのこと。
馬さん、ちょっと体調崩してて酒をひかえてました。
まわりのお客さんたちがザワザワしてきたのです。
「あ、上田馬之助だ・・・」
おもむろに馬さん、アイスペールにウイスキー一本ごと入れて、片手でむんずと掴むやいなや、ガブガブと一気に飲み干したではありませんか。
おおお・・・と周囲の声。
馬さん、大丈夫? とワシが聞くと
「済まんかったッス、でも、レスラーである限り、いつ何時でも何人の挑戦をも受けなきゃならんのと違うかと思っているものですから、期待という風が吹いたら期待通りをやらなきゃならないんです。」
惚れました。
悪役のお陰で正義の見方が存在できるのですね。
ただ、悪役の優しさに気づくためにはそれなりの経験値も必要なようです。
ひとりに一つずつ、代わりのきかないお役が与えられています。
それが何かを見出す旅が、人生という名の船の行きつく先なのかもしれません。
ちなみに、上田馬之助さんを澤田升男さん
ウイスキーを、CoCo壱番屋の5辛、あるいはマクドと読み替えていただいてもよろしいかと
思える岐阜の夜でした。